結婚後間もなくして離婚の危機に見舞われる夫婦がいるのも、こうした幻滅感の積み重ねが原因といえる。しかし、こうして結婚後に女房や夫に対してはじめて感じるものの中には、失望や幻滅ばかりではないはずである。時には嬉しい発見もなくはない。たとえばこんな話がある。作家の梅崎春生さんは無類の酒好きで、毎晩のように酒を飲んでいた。深酒のせいで、いつも顔色はどす黒く、肌はカサカサで、ヒゲも伸び放題だった。後に夫人となった恵津さんと知り合った頃も、梅崎さんは風采をかまわず汚いままであった。そんなある時、梅崎さんは恵津さんの手料理を御馳走になった。いつものうす汚い格好で恵津さんの部屋を訪れた梅崎さんは、さすがに自分の姿が気になったのか、「風呂に入ってくる」といって、さっさと出ていった。ほどなくして戻ってきた梅崎さんは、洗い髪をオールバックにして、きれいにヒゲを剃り、顔には赤みがさしていた。いつもうす汚れた風体しか見ていなかった恵津さんは、この梅崎さんのあまりの変身ぶりに目をみはった。そして得したような気分になり、「本当はきれいな人だったのね」と思わずつぶやいたそうだ。